サマソニ'22の感想 - 主にMåneskinとKing Gnuの件
2022年8月20日〜21日に開催された音楽フェス、サマーソニック。フジロック同様、2020年は開催中止、2021年は全席指定+1ステージのみなど制限付きで開催、今年は3年ぶりにオールスタンディング+東京・大阪2会場入れ替え制で開催されました。
わたしは東京会場(千葉県)に2日間参加。素晴らしいライブをたくさん観ることができましたが、その一方で一部のアーティストのステージ上でのパフォーマンスがネット上で物議を醸しました。決めつけて非難する人、擁護する人、見てないのに憶測でいろいろ語る人など、カオスな状態…。問題となったアーティストのうち、MåneskinとKing Gnuを現地で見ていたので、見たこと思ったことを記録しておきます。
はじめに
両バンドについての基本情報
Måneskinについて
イタリアのロックバンド。ヨーロッパ最大の音楽コンテスト「ユーロビジョン」2021年の優勝者となったことで注目を集め、世界的な名声を獲得。伝統的なハードロックにラップ・ヒップホップの要素を織り交ぜた音楽性、非英語圏からの世界的なブレイク、メンバーのジェンダーレスなファッションなど、まさに新時代を象徴する「ロックの救世主」。
わたしがちゃんと聴き始めたのはサマソニ出演発表後です。コーチェラの配信も見てその熱量に圧倒され、「このステージが日本に来るのか…!」と興奮。めちゃくちゃ期待してました。
King Gnuについて
言わずと知れた現代J-POPシーンを代表するロックバンド。知ったきっかけはTVアニメ「BANANA FISH」のエンディング曲ですが、フジロック2021の配信で衝撃を受けてちゃんと聴きました。
後に繋がる話なので触れておきますが、フジロックのMCでは、医療現場が逼迫している現状に対して気持ちの折り合いがつかないままステージに立っていることを吐露したり、同じ時間帯に出演しているNUMBER GIRLへのリスペクトを述べたり、そういう率直な姿勢にも好感を持ちました。
もちろん音楽自体もかっこよくて、今の勢いがある状態のライブを見たい!と思い、東京ドーム公演に申し込むも落選、サマソニは貴重な機会なのでこちらもめちゃくちゃ期待してました。
…という感じで、どちらもファン歴は浅いけど同じくらいの期待値でライブを見たので、問題となったパフォーマンスについてどちらかに過剰に肩入れしたりせずに受け止めることができたかなと思います。
現地で確認した事実
両バンドとも8月20日、ZOZOマリンスタジアムを使ったサマソニ最大規模のステージ、MARINE STAGEにて16:30からMåneskin、17:45からKing Gnuと続けて出演。
Måneskin
- ヴィクトリア・デ・アンジェリス (ba)(=唯一の女性メンバー)、トップレス(+ニップレス着用)で演奏
- トーマス・ラッジ(gt)、猿の被り物を被ってステージに登場
- 井口理(vo)、MC第一声で「マネスキンで〜す」「名前だけでも…(ゴニョゴニョ)」(※おそらく『覚えて帰ってください』)
- 勢喜遊(dr)、乳首にテープを貼ってステージに登場、さらに退場時にテープを剥がして口に放り込む
Måneskinのパフォーマンスはこの投稿で確認できます。
King GnuのMCは動画など見つからず…。勢喜遊さんのニップレスは楽屋での様子がメンバーのストーリーに上がっていた記憶はあるのですが辿り着けず…。です。
現地で感じたこと
- ヴィクトリアのトップレス
ライブ映像など見て、たまに上半身裸でステージに立つことは知っていたけど、日本でもやってくれた!とテンション上がりました。トップレスについての本人の見解はこちら。
余談ですが、Måneskinのライブ中、King Gnuの女性ファンと思われる3人組が近くにいました。もちろんずっとその3人を見ていたわけではないし全然見当違いかもしれませんが、ヴィクトリアがトップレスになったことに気づいた1人が指差して他の2人に教えて、そのあと3人ともヴィクトリアを目で追いながら全力で盛り上がっていて、それこそ茶化したりする感じではなく、純粋にすごい!かっこいい!って感じで…。ヴィクトリアがこの姿を日本のオーディエンスに見せた意義は大きいぞ、などと思いました。
- 猿の被り物
何も思いませんでした。というかそれどころではなかった、という感じでまったく印象に残っていません。思い返すと登場した瞬間には「猿だ!『猿の惑星』の猿かな?」くらいは考えましたが、45分間最初から最後までずっと刺激的だったMåneskinのライブの中で、猿の被り物はかなり印象が薄かったです。
- 「マネスキンで〜す」
問題のMCの前に、これはKing Gnuの次に出演したThe 1975のライブを見て確信したのですが、King Gnuのライブは音がめちゃくちゃ悪かったです。低音がバキバキに響いていて且つボーカルの音もくっきり聴こえたMåneskin、爆音なのに信じられないほどクリアな音だったThe 1975、それに比べてKing Gnuは低音はしょぼいしボーカルも小さいしで「Slumberland」→「飛行艇」という最高の開幕だったのに、いきなり残念な気持ちになりました。
そして問題のMCを聞いて「ダッッサ!!」と思いました。ちゃんとそのあとでもKing Gnuですって言った?誰の名前を覚えて帰れって言ってんだ?King Gnuって自信に満ちた、肝の据わった天才集団だからかっこいいと思ってたのに、こんな情けない発言するんだ、ってめっちゃ冷めました。「俺たちが日本のKing Gnuだ!」くらい言って欲しかったですね。せめてもう少し音がマシなら…。
- 勢喜遊のニップレス
カメラに映った瞬間に「これはマズいぞ」と思いました。「炎上しそう」と。最初に書いた通りファン歴は浅いですが、メンバーのSNSは一通り見ていて勢喜遊はファッションが尖りまくっているけど常識的な感覚は持っている人、みたいな印象。ヴィクトリアのニップレスを真似したのもただかっこよくて憧れただけで、女性のトップレスを馬鹿にしてやろうみたいな意図はないんだろうけど…。
「炎上しそう」と思ってヒヤヒヤして、瞬時にいろいろなことを考えました。男性は自由に上半身裸になれるのに女性が脱ごうとすると性的な視線に晒されること(性的対象化)に異議を唱えるヴィクトリアのパフォーマンスに対して、あえて男性がニップレスを着用することで連帯の表明だと解釈してもらうにはどうすればいいのか、など…。
昔は男性も自分の権利のために闘っていたのに、最近の男性は女性を貶してばかりですね。
かつては男性のトップレスも許されなかった時代があるわけで、ニップレスを着用することで「一緒に闘うぞ」という意思表示になるかもしれません。最後にテープを剥がして食べたのも「こんなもの要らない世の中にしていこう!」みたいな意味で解釈できなくもない…。好意的に解釈してくれる人ばかりじゃないし、人によって解釈が分かれるスレスレのパフォーマンスだなぁ…これはマズいなぁ…とその場で思いました。
音は悪いし、MCはダセェし、危なっかしいパフォーマンスもするしで、せっかく期待してたのに非常にモヤモヤが残るライブでした。
ネット上での批判
発端のツイートまでは追っていませんが、大まかに以下の感じで認識してます。
「King Gnuのドラムがヴィクトリアのニップレスをふざけて真似して、MCで『マネスキンです』とか言ってネタにして茶化していた。時代遅れの価値観で恥ずかしい」
→「それならMåneskinの猿の被り物はアジア人への差別じゃないのか?」
King Gnuの「マネスキンです」と、バッテンのニップレスの真似事も嫌な気持ちになったな。マネスキンは、ジェンダーレスな価値観を表明するために、自分がしたい格好をしているわけでしょ。ふざけて真似したりするもんじゃないと思った。
— 葛原信太郎 (@Shintaro_Kuzu) August 20, 2022
サマソニ、乳首ニップレスを茶化したKing Gnu への憤りはわかった。じゃあさ、マネスキン 終盤の猿をどう捉えれば良いんだ?そこに差別的な意図はあったのか?全てが素晴らしいパフォーマンスだったと言い切って大丈夫なのか?このままでいいのか? pic.twitter.com/jThNzDQlnh
— Yusuke|ライター (@Yusuke_writer_) August 21, 2022
ネット上での批判を踏まえて考えたこと
King Gnuへの批判については現地でヒヤヒヤしてたので、恐れていた通りという感じですが、「茶化し」だと決めつけている人の多さには驚きました。もちろん「差別の意図はなかった」は許されないし、実際に傷ついた人がいる以上擁護できない行為です。でも当人たちから何の言及もないうちに“King Gnu自体”どころか“邦ロック界隈”まとめて貶す人まで現れて、その攻撃性も相当危険じゃないかなぁ…と思いました。
マジでこの話題について触れたくなかったんだけどヴィクトリアの思想として男性がニップレスしてもいいしそれをKing Gnuが真似してくれたの普通にめっちゃ嬉しいこの考えのMåneskinファン全然いなくて鬱 絶対リスペクトしてるから真似したんでしょ pic.twitter.com/fPz8cGo7QI
— ♡Kåho♡ (@ilovegrunge2) August 25, 2022
MCの「マネスキンで〜す」はその場では怒りを感じたけど、落ち着いて振り返ると、Måneskinのライブが凄すぎて、怖気付いて、ちょっととぼけたくなっちゃった、みたいな感じかな〜と想像しました。Måneskinのライブ、スタジアムを揺らすっていうのが比喩じゃないくらい、とてつもない盛り上がりだったからね…。
King Gnuの曲は海外の音楽と並んでも全然見劣りしないし、井口理の歌唱力は現代J-POPの頂点に君臨するレベルだと思っています。でもライブのクオリティ、ステージ上での言動から結局まだサマソニトリ前の器じゃなかったんだな、という結論に至りました。
猿の被り物については、ライブのクオリティ差でバイアスが働いて、つい反射的に「あれは差別とかじゃねーし!」と反論したくなったし、擁護する気持ちも理解できますが、よく考えたら普通にダメですね。バンド初のアジア公演でわざわざ「猿」、という文脈が差別じゃなければなんなんだって感じです。「日本人として傷ついた」と思うのは当然、でもファッションとしてニップレスを真似したのと同じで被り物もたぶん深く考えずにふざけた格好をしただけだと思います(繰り返しますが差別の意図がなくてもダメなものはダメです)。
…と、ネット上でウダウダ言ってたら公式から素敵な写真が投稿されました。
Måneskin #サマソニ 大阪会場にてKing Gnuさんと📸
— ソニーミュージック洋楽 (@INTSonyMusicJP) August 21, 2022
実は昨日の公演ではドラムのトラブルがあり、急遽スネアをお借りすることに🙏
イーサンから勢喜 遊さんに直接お礼しました!
「本当に昨日はありがとう!僕のスネアよりもよかったよ(笑)」@KingGnu_JP @thisismaneskin #マネスキン初来日 pic.twitter.com/7zLTjCyOuo
批判は間違いなく当人たちに伝わっているし、この写真1枚で「よかったよかった」と思考停止するのもダメだけど、お互いそんなに深刻に捉えてなさそうで安心しました。両者とも誰かを傷つけようとしたなんてあり得なくて、配慮が欠けていただけ。ちゃんと謝って、今後のパフォーマンスがポジティブな方向に変わっていけばそれで良いと思います。
その他サマソニ全体を通して
今年のサマソニは新世代の多様なアーティストが揃ったラインナップが素晴らしかったし、現地の盛り上がりも最高でした。東京会場(千葉県)2日目に出演したONE OK ROCKのTakaが声出しを煽ったと批判されていたけど、初日から声出しを煽るアーティストを何人も見ていたのでさすがにかわいそうだな(Takaって嫌われてるんだな…)と思いました。
ちなみにわたしが見た中で最初に声出しを煽ってきたのはイギリス在住の日本人アーティスト、RINA SAWAYAMAさんでした。RINA SAWAYAMAさんがMCでおっしゃっていた「わたしはあなたをジャッジしない。あなたも周りをジャッジしないで。ここはセーフプレイスです」という言葉はずっしりと胸に響きました。
ここまで書いたこともMåneskinとKing Gnuを「ジャッジ」している内容では?と躊躇いつつも、あくまで「記録」として意味があるはずと考えて書きました。
また、炎上した案件は他にもあって、マキシマムザホルモンがMCで非日本語話者の日本語のイントネーションを茶化したとか、現地で見ていないので何とも言えませんが、事実なら猿の被り物の比じゃない直接的な差別ですよね…。
Måneskinがサマソニ2日目、大阪で出演した際に中年男性客がヴィクトリアのニップレスを剥がそうとしたなどというただの犯罪行為の目撃情報もあり、それ以外にもこんな気色悪い投稿をいくつも確認しました。
マネスキンのベースの子がおっぱい出した瞬間に全男が5mずつ前に行ったの後ろから見てたからな俺。 pic.twitter.com/nMIb2tgW6a
— ロング【公式】 (@tat186long) August 21, 2022
これこそ疑いようもなく「茶化し」だよな…。気持ち悪い。
それでも、Måneskinのようなアーティストが日本のスタジアムでライブをやった意義は本当に大きいと思うし、サマソニ全体の客層もかなり幅広かった印象です。アーティストのステージ上での言動が批判され、議論を呼ぶことも健全なことだと思います。日本の洋楽フェス、音楽シーン、良い方向に変わっていっているのでは!?と感じた2日間でした〜。